LOGIN第173話 立て直し
階下の警備室・中央監視室。
副長の園田正人(そのだ まさと)は、複雑な思いで電話を切った。
そして中央監視室の同僚たちを見回し、咳払いをしてから口を開いた。「銀光ビルの所有者が変わったことは、もう知ってるだろう? 今の社長は、十七階の橘さんだ」
すぐに誰かが尋ねた。「副長、さっきの電話は橘さんからですか?」
ほかの者たちも一斉に園田へ視線を向けた。
彼らはとっくにそのことを知っていた。
だからこそ、新しいオーナーから声がかかるのを待っていたのだ。
園田は頷いた。「ああ、橘さんがまさにそのつもりだ。身支度して、すぐに俺と一緒に上がるぞ」
園田は頷いた。「ああ。橘さんはそのつもりらしい。身支
第292話 まだキスし足りないのか――白井家の話は、もううんざりだ。蓮はそのまま話題を変えた。「ここから荘園までは一時間くらいかかる。疲れたか? 疲れてるなら少し寝ててもいいぞ。食事は家に着いてからにしよう。向こうの執事が、料理人にたっぷりうまいものを用意させてあるからな」それを聞いた翔太が口を挟んだ。「蓮はお前が海鮮好きだって知ってて、わざわざ別の場所から取り寄せたんだぜ。しかも、聞いた話じゃ、海で獲れたばかりのものらしい。すごく新鮮なんだとさ」蓮は翔太をぎろりと睨んだ。「お前は本当に口数が多いな。黙って運転してろ」――せっかく嫁と話してるのに、横から口を出してくる。まったく、うっとうしいことこの上ない。連れてこなきゃよかった。だが、今さら後悔しても遅い。翔太の図々しさは、もはや芸術の域だ。一度絡まれたら、そう簡単には振りほどけない。翔太は片手でハンドルを握ったまま、もう片方の手で口にチャックをする仕草をした。「はいはい、黙りますよ。せっかくの夫婦の時間を邪魔しちゃ悪いからな。そうだ、この仕切り板を上げてやろうか?」最後の一言だけは、やけに真剣な口調だった。美月は呆れてしまった。「……」――蓮がこの男をうざがるのも無理はないわ。次の瞬間、蓮はあっさりと同意した。「分かってるなら、さっさと上げろ」美月は再び言葉を
第291話 警戒するに決まってるスマホはそのまま優香の目の前に突きつけられていた。そのため、優香は否応なく画面に映る写真に目を落とした。そこには、顔を歪めた醜い女が写っていた。……これ、誰?自分?優香は一瞬、信じられないという表情になった。悠真はそんな妹の様子を見て、先ほど撮った写真が効いたのだと察し、スマホをしまった。「行こう。これ以上そんなふうに取り乱してたら、ここでの醜態が国内まで広まるぞ。たった一人の男に執着して、お前が今どれだけみっともないか、よく見ろ」ここはM国とはいえ、空港に国内から来た人間がいないとは限らない。帝都から来ている人だっているかもしれないのだ。優香の顔が一瞬こわばった。それから、見る見るうちに表情を曇らせ、悠真の後についていった。二人の間には、少し距離があった。もはや、昔のような兄妹の情など残っていなかった。やがて、二人は道路脇までやって来た。車はすでにそこで待っていた。しかも、彼らの車のすぐ近くでは、蓮が美月を気遣いながら車に乗せているところだった。その光景を目にした途端、優香の目は再び怒りで赤くなった。――これも何かの因縁か。せっかく落ち着いた妹がまた騒ぎ出さないよう、悠真は慌てて声をかけた。「優香、乗るぞ」優香はしぶしぶ視線をそらした。車に乗り込んでからも、その表情はまだ平静を保
第290話 精神病患者は家に閉じ込めておくのが一番だ「美月! こっちだ、こっち! 早くこっちを見てくれ! ここだぞ!」蓮は興奮を隠しきれない様子で、しきりに手を振っていた。そんな彼のはしゃぎっぷりを見て、美月は思わず口元を引きつらせた。――あんなにぴょんぴょん跳ねながら手を振るなんて、いくら何でも元気すぎない?本当に二十三歳なの? どうして中身は子どもみたいなのかしら。美月が落ち着いて歩み寄ると、蓮は待ちきれないとばかりに駆け寄ってきて、いきなり彼女をぎゅっと抱きしめた。「やっと来てくれた……!」突然きつく抱きしめられた美月は、何とも複雑な気持ちになった。もちろん、自分でも気づかないほど微かな喜びも感じていたのだが。「ちょっと、離して……息ができなくなりそうよ……」その言葉に、蓮は慌てて腕を緩め、彼女から体を離した。そして、心配そうに尋ねた。「どうだ? もう大丈夫?」不安そうな彼の顔を見て、美月の心もふっと和らいだ。「大丈夫よ」それを聞いて、蓮はようやくほっと息をついた。「よかった。ごめんな、久しぶりにお前に会えて、嬉しさのあまり興奮しすぎた。つい力が入りすぎちまったよ」「もういいわ。さあ、行きましょう。まずはここを出てから話しましょう」「ああ」蓮はすぐに返
第289話 まずは医者に診てもらわないと美月は後ろに目があるわけではない。それでも、背後の気配には気づいていた。――とりわけ、飛行機を降りてからずっと感じていたあの視線。あれには、はっきりと悪意がこもっていた。まるで、自分に死んでほしいとでも願っているかのようだった。だからこそ、美月はずっと警戒していた。優香がぶつかってきた瞬間、美月はすっと横へ二歩ずれた。その際、反対側の足をわずかに遅らせて引き、さらに外側へずらした。そのせいで、優香は美月にぶつかるどころか、彼女の足につまずいて転んでしまった……もともと、ぶつかるつもりで勢いよく突進してきたのだ。そのため、つまずいても勢いを殺しきれず、そのまま前のめりになって床に激しく転倒した。美月は横目でちらりと見ただけで、すぐに視線を戻した。――やっぱり、この女は頭がおかしい美月はますますそう思った。――でなければ、こんな人目のある場所で、わざわざ人にぶつかろうとするなんて。自分が何も言わず、やり返しもしないとでも思っているのか。ふん!美月は相手にする気もなく、そのまままっすぐ歩いていった……一方、床に倒れた優香は、痛みに顔をゆがめていた。転んだ瞬間、とっさに手をついたせいで、手にひどい痛みが走っていた。――痛っ……
第288話 何か精神的な問題でもあるのか?優香は当然、さらに罵声を浴びせようとした。もはや、なりふり構っていられない状態だった。だが今度は、悠真がそれを許さなかった。彼は優香に手刀を一発食らわせた。優香はその場で気を失った。客室乗務員は驚きに目を見開いた。悠真はすぐに言った。「大丈夫です。少し眠れば落ち着くでしょう。先ほどは本当に失礼しました」さすがに、妹に何か病気があるとは言えなかった。客室乗務員は言葉を失った。……本当に大丈夫なのだろうか。とはいえ、内心では少しだけ胸がすく思いもしていた。客室乗務員たちだって、腹が立たないわけではない。ただ、仕事柄、表に出さずにいるだけだ。「かしこまりました。何かございましたら、呼び出しボタンでお知らせくださいませ」悠真はうなずいた。「分かりました」客室乗務員は軽く会釈すると、その場を離れていった。悠真は少し離れた席にいる美月に目を向けた。「妹がご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません……」だが、美月は彼が言い終わる前に口を開いた。「妹さんに精神疾患、それも躁病のようなものがあるのなら……ご家族がきちんと見ていてください。野放しにして、外で人に吠えたり噛みついたりさせないことです。ああいう振る舞いは、あまりにも迷惑です
第287話 ファーストクラスで騒ぐなんて!ちょうどそのとき、美月も目を開けた。実のところ、彼女は最初から眠ってなどいなかったのだ。目を開けたタイミングで、ちょうど客室乗務員がそばを通りかかった。「お客様、お食事をお持ちいたしましょうか?」美月は少しお腹が空いていたので、すぐに答えた。「お願いします」「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」客室乗務員はほかの乗客にも声をかけて回った。一人がまだ眠っていたものの、それ以外の乗客は皆、食事を希望した。ほどなくして客室乗務員が戻り、順番に機内食を配り始めた。美月は目の前に並べられた料理を見た。品数も多く、なかなか豪華な食事だった。一口食べてみると、家の料理人が作る料理には及ばないものの、決して悪くはなかった。美月がおいしそうに食べているのを見て、優香は思わず鼻で笑った。「ふん、やっぱり結婚相手次第で人生って変わるものね。昔のあんたなら、ファーストクラスに乗る機会なんてなかったでしょう?」悠真は、午前中はようやく静かに過ごせていたというのに、また妹が余計なことを言い出したのを見て、思わずたしなめた。「優香、黙れ!」だが、今度ばかりは優香も兄の言うことを聞かず、真っ向から言い返した。「私は何も間違ったことなんて言ってないわ! 自分の意見を言う自由もないっていうの?」「これ以上騒ぐなら、あとでカードを