تسجيل الدخول第173話 立て直し
階下の警備室・中央監視室。
副長の園田正人(そのだ まさと)は、複雑な思いで電話を切った。
そして中央監視室の同僚たちを見回し、咳払いをしてから口を開いた。「銀光ビルの所有者が変わったことは、もう知ってるだろう? 今の社長は、十七階の橘さんだ」
すぐに誰かが尋ねた。「副長、さっきの電話は橘さんからですか?」
ほかの者たちも一斉に園田へ視線を向けた。
彼らはとっくにそのことを知っていた。
だからこそ、新しいオーナーから声がかかるのを待っていたのだ。
園田は頷いた。「ああ、橘さんがまさにそのつもりだ。身支度して、すぐに俺と一緒に上がるぞ」
園田は頷いた。「ああ。橘さんはそのつもりらしい。身支
第176話 出くわした「ちょっと用事があるの!」美月はそれ以上、何も言わなかった。蓮はその言葉から、彼女があまり話したくないのだと察し、それ以上深く追及することはなかった。夫婦とはいえ、プライベートなことまで踏み込まず、嫁には十分なプライバシーを与えるべきだ。「夜は何食べたい?」「何でもいいわ。それに……」美月は蓮のほうを向いた。「村上さんが、いつも先に用意してくれてるんじゃない?」厨房では、あらかじめ献立が決められている。例えば煮込み料理なら、朝から火にかけていることもあるだろう。「もちろん、追加だってできるぞ! 食べたいものがあれば、あとで厨房に言えばいい」蓮は、今の彼女の表情があまりにも可愛らしくて、思わず手を伸ばし、美月の頭をわしゃわしゃと撫でた。絹のように滑らかな髪の感触が心地よく、蓮の気分はすっかり上機嫌になった。「何してるの?」美月は頭を横にずらし、蓮の手を髪から払いのけた。「女の頭を触るもんじゃないって、聞いたことないの?」蓮は一瞬ぽかんとしたが、すぐに大笑いした。「……お前、本当に可愛いな!」それに、頭を撫でるときの言い伝えなら、それは逆だろ?「男の頭は触るもんじゃない」――そうだろ?もちろん、蓮はそんなことを気にするような
第175話 一人潰してほしい音は相手が出ていくのを見届けてから、ようやくスマホを取り出し、一本の電話をかけた……電話はすぐにつながった。「音か、何の用だ?」音はこの声を聞くと、前置きもせずに切り出した。「飛田さん、一人潰してほしい人がいるの……あの女を社会的に抹殺してやりたいの!」電話の向こうの飛田竜(ひだ りゅう)は、わずか二秒ほど沈黙した。やがて口を開く。「また誰かに気に障ることでもされたのか?」「橘美月よ。銀光ビルの新しいオーナー」音は、飛田がこの人物について調べられないとは思っていなかった。何しろ、これまで彼が自分の期待を裏切ったことは一度もなかったのだから。今回は、飛田の沈黙が少し長かった。音が苛立ち始めた頃、ようやく電話の向こうから声がした。「二億だ」その金額を聞いた瞬間、音は怒りを爆発させた。「二億? ふざけた金額を吹っかけないでよ!」「銀光ビルのオーナーだぞ。それに、蓮と関わりのある人間だ。俺が二億で引き受けるだけでも、かなりのリスクを負うことになる。高いと思うなら、それでいい。こっちだって、こんな金は別に稼ぎたくない――俺は蓮と敵対したくないからな」音は飛田が電話を切ろうとしているのを察し、慌てて声を上げた。「待って、分かったわ。二億で承諾する!」二億――あの女に大恥
第174話 断りが分からないの?音は信じられない思いで目を見開いた。わざわざ自分から足を運んだというのに……この女は、それでも自分の顔を潰すつもりなのだ。煮えたぎる怒りが、今にも抑えきれなくなりそうだった。幸い、最後の最後でどうにか堪えた。無理やり笑顔を作り直し、言った。「橘さん、会社はこの階のすぐ下ですよ。ほんの少し顔を出していただくだけですから!」美月は顔を上げ、今度はまじまじと彼女を見た。やはり、この人が売れているのか、売れていないのかには、それなりの理由があるらしい。たとえば……厚かましくて、人の断りが理解できないところとか。美月は手にした黒いペンをくるりと回し、ゆっくり口を開いた。「音さん、お誕生日おめでとうございます。でも、本当に時間がないの。どうか分かってちょうだい!」またしても断られ、音の顔に浮かんでいた笑顔は、今にも引きつりそうになった。「橘さん、本当にこの階のすぐ下なんです。ちょっと顔を出していただくだけでいいんです。そんなにお時間は取らせませんから……」「音さん、どうして私を誕生日会に呼びたいのかは知らないけれど、はっきり言っておくわ。私は本当に時間がないの。それに……」美月は口元に薄い笑みを浮かべ、まっすぐ音を見据えた。「仮に時間があったとしても、どうしてあなたの誕生日会に行かなきゃいけないの? 私たち、別に親しいわけでもないでしょう?」「もうお互いの時間を無駄にするのはやめましょう。音さん、帰ってちょうだい」
第173話 立て直し階下の警備室・中央監視室。副長の園田正人(そのだ まさと)は、複雑な思いで電話を切った。そして中央監視室の同僚たちを見回し、咳払いをしてから口を開いた。「銀光ビルの所有者が変わったことは、もう知ってるだろう? 今の社長は、十七階の橘さんだ」すぐに誰かが尋ねた。「副長、さっきの電話は橘さんからですか?」ほかの者たちも一斉に園田へ視線を向けた。彼らはとっくにそのことを知っていた。だからこそ、新しいオーナーから声がかかるのを待っていたのだ。園田は頷いた。「ああ、橘さんがまさにそのつもりだ。身支度して、すぐに俺と一緒に上がるぞ」園田は頷いた。「ああ。橘さんはそのつもりらしい。身支度を整えて、すぐ俺と一緒に上がるぞ」ほかの者たちも、すぐに制服を整えた。数分後、彼らは緊張した面持ちで十七階へやって来た。オフィスに入り、本人を目の当たりにした瞬間、彼らは少なからず衝撃を受けた。あまりにも美しい。ビルに入っている芸能事務所の女優たちよりも、ずっと美しい。そのとき、美月も顔を上げて彼らを見た。やって来たのは、全部で六人だった。「隊長は誰?」美月が尋ねると、園田はすぐに一歩前へ出て答えた。「橘さん、隊長は昨日辞めました! 私は副長の園田です」美月は彼らに電話をかける前に、すでに名簿に目を通していた。だから、園田のことも把握していた。ただ、彼
第172話 自信を持って!美月は、戸田がまだ信じていない様子を見て、笑った。「靖のことは気にしなくていいわ。あいつは私の中ではランク外よ。今はしっかり仕事に専念しなさい。ほかのことは気にしないで」戸田は、彼女の表情があまりにも自然で、慰めているようにも見えないのを見て、ようやく思い出した。そうだ。社長の背後には、蓮さんと神崎家がいる。そう思うと、胸につかえていた重荷がようやく下りた。「分かりました。それでは、仕事に戻ります!」社長が自分たちのために盾になってくれるのなら、自分たちは仕事に全力を注ごう。会社がある限り、自分たちもいる。会社が潰れれば、自分たちも終わりだ。美月は頷いただけで、それ以上は何も言わなかった。三十分ほど経った頃、彼女のスマホが鳴った。手に取って画面を見ると、蓮からの電話だった。美月はすぐに応答した。彼女が口を開くより先に、蓮のやや苛立った声が聞こえてきた。「靖の奴が会社に来たのか?」美月は、それで恒が蓮に報告したのだと分かった。「ええ、来たわ。よく分からないことを言って帰ったけど、無視したわ」蓮は心の中で罵った。あの畜生め。喉元まで込み上げてきた怒りを抑え、彼は平静を装って言った。「そうだな。無視でいい。あの白井の奴はロクな奴じゃない。また来たら、遠慮なく人を呼んで外に放り出
第171話 まさか恋愛脳か?「彼は有能な人なんでしょう? それなら、どうしてうちみたいなできたばかりの小さな会社に移りたいと思うの?」十年の職歴は決して長くはないが、彼の能力を証明するには十分だ。そんな人材なら、たとえ今の会社を辞めたとしても、いくらでも大企業に行けるはずだ。恒はため息をついた。「あの会社の若旦那が……彼の恋人を横取りしたんです」「……?」美月は絶句した。「つまり、その貿易会社の社長の息子が、彼と結婚を間近に控えていた女性に手を出したんです。それで彼は会社を辞めて、今も無職のまま三ヶ月以上が経っています」その説明を聞いて、美月はすぐに事情を理解した。「失恋したってこと?」「まあ、そんなところです。彼は彼女と七年も付き合っていましたから、それなりに思い入れも深かったんでしょう」「それでも、仕事を見つけるのは難しくないでしょう? それに、長年働いてきたんだから、貯金だってそれなりにあるはずよ。自分で起業するにしても、十分な資金はありそうだけど」恒は気まずそうに笑った。「彼は起業にはあまり興味がなくて……それに、お金にもあまり余裕がないのかもしれません。彼女がかなりの浪費家で、帝都にマンションまで買ってやっていますから……」美月は言葉を失った。「……」ようやく理解した。この男、どうやら恋愛脳らしい。&nbs







